2006/03/31 21:50:56
(Yy4VrN89)
「最後に一つお願いしていいかな?」
彼女からのメールに、そう書いてあった。
「今までの私達のこと、体験談に書いてほしいの…」
だから、この板に馴染まない内容かもしれないけれど、
削除や移動は管理者さんにお任せしますので、
この板を、お借りすることにします。
僕たちは、待ち合わせ板で出会ったことに、間違いはないのだから・・・。
2年前の1月、
当時まだ19歳の女の子から、
毎朝の私鉄通学での痴漢報告のようなスレが立つようになった。
毎日決まって午前中、ちょうど学校に着いて、
一息付いた頃に書き込んでいるような感じだった。
たまたま、最初のスレで、書き込みをしたのがきっかけで、
毎日、彼女のスレを追うようになったのだけれど・・・。
端から見ればウザイ奴だったと思うのだが、
彼女は、妙な偏見も持たずに、楽しく話しをしてくれた。
ただ、相手にメールを送ることだけは、
僕の他に、レスをしている男性も含めて、
極めて慎重な様子だった。
それが・・・、
一週間ほど、毎朝の掲示板上での話の後、
彼女からメールが届いた。
余程気持ちを許してくれたのだろう、
その日だったか、その翌日だったかは曖昧だけれど、
彼女とのメールが、一日100件を越えたほどだった。
ほどなく電話番号も交換し、夜更けに淋しがり屋の彼女の話を聞いたり・・・。
でも、会う気はないんだ、と言っていた。
既婚の僕は、真摯な恋愛関係を求める彼女にとって、
会って何かをする対象とはなりえないらしかった。
「だったら黙ってお触りだけしに行こうかな?」
そう伝えても、もうここまで仲良くなった僕では、
受け入れてはもらえないようだったのだ。
だけど・・・。
人の気持ちは、理屈では割り切れないときがある。
やがて、そのときがやってきた。
毎朝、同じ電車で、同じ場所から乗り、
痴漢行為を受け入れてきた彼女。
少し困った事態が起きていた。
何人かに目を付けられ、次第にエスカレートする行為。
このまま進めば、後追いされ、声を掛けられそうな予感。
彼女は、それは絶対に望んでいなかった。
実はこのとき、まだ男性経験の無かった彼女。
痴漢の快楽は受け入れても、
男性そのものには未知の恐怖を抱いていたのかもしれない。
一度だけ、
会話も、顔合わせさえも無しの、待ち合わせが許された。
不安なく、行為の快楽だけを享受したい彼女。
その願望に応えてあげたかったし、
彼女を狙っている痴漢たちへの牽制もしたかった。
その朝、早く家を出て、
郊外の待ち合わせ駅まで向かう。
指定の列に並ぶ彼女はすぐにわかった。
乗り込むと、たちまち怪しい連中が周囲を取り囲み、
様子をうかがっている。
彼女を守るように、手摺りに手を回しながら抱き込むようにした。
安心してほしいから、優しく包むようにして、手を重ね、
トントンとなだめるように叩いてあげる。
それが、とっても嬉しかったのだそうだ。
タッチ自体は、ジーンズのファスナーこそ下ろしたけれど、
本当に(彼女がそれまで受けていた行為に較べれば)ソフトなものだったのだけれ
ど・・・。
それからの彼女は、一層甘えるように、僕を慕ってくれたし、
ときには素直な気持ちの感情を、ぶつけてきてくれるようになった。
もちろん、エッチなメールの相手も、イケナイ写メの交換も、何度もした。
もう二度と、会うことはなかったのだけれど・・・。
そんな中でわかってきたことがあった。
痴漢を受け入れてしまうとはいえ、
彼女自身はとても繊細で、純粋で、妥協のない娘だった。
友人や家族、実習先の人達と時にうまくいかず、
そんなときはいつも、僕が聞き役だった。
それがあまり良くなかったのかもしれない。
彼女の、僕への精神的な依存度が強まるのがわかった。
どんなに好かれても、頼られても、
会えるわけでもなく、
家庭もある僕では支える限度があった。
次第に彼女のメールはいらついた気配を帯びてきて、
僕たちはあまりメールをしなくなった。
去年の夏以降から、僕は特定の女性と付き合うようになり、
サイトの利用もほとんどしなくなってしまう。
その女性の存在が、彼女との長い時間にもピリオドを打つきっかけになった。
「私だけを好きでいてくれなけば意味がない・・・」
今年の初め、ピュアな彼女が出した結論だった。
そして、最後のお願いのメール。
2年の時間を振り返りながら、この話を書いた。
一度も会話を交わすことなく、
いや、目さえも合わせることなく、
指先だけの会話で、気持ちを通わせた二人・・・。
彼女の中で、この時間が「想い出」となって、
いつまでも残ってくれるように、と願いながら・・・。
【エピローグ】
忙しさから、中々約束の話を書けなかった僕に、
ある日彼女からメールが届いた。
彼氏ができた!と嬉しそうに書いてあった。
覚えたての(笑)エッチも、楽しくて仕方ない様子。
話し足りないように、電話をしてきた、彼女の明るい声を聞きながら、
僕はちょっとだけ切ない気持ちで、
でも、彼女の幸せを願わずにはいられなかった。